共通の標的が薄れた今、私が群れの結束を維持するための道具がなくなった。標的を攻撃することで担保していた私の中心性が、失われつつある。

砂の城が、満潮に飲まれていく感覚。

私は静かに、次の手を考え始めた。

でも次の手が見えなかった。

これが初めての経験だった。O中学での崩壊は、いわば突然来た。計算していなかったから対処できなかった。今回は崩壊の予兆が見えている。見えているのに、手が打てない。

O中学で学んだことがある。居場所のない人間の顔を、私は知っている。鏡の中に見たことがある。その顔に戻ることが、何より恐ろしかった。

それが恐ろしいと思っている自分を、私はまた発見した。

私は怖かった。

全部計算で動いてきたつもりだったのに、その根底に恐怖がある。居場所を失うことへの、また孤立することへの、また布団の中で天井を見続ける日々に戻ることへの、単純で原始的な恐怖。

本山優子が自分のラベルを守るために私の内側を見なかったように、私も自分の恐怖を見ないようにしていた。

でも今、それが見えている。

砂の城の中心で、私は恐怖を抱えている。

標的の机の上に、誰かが花を置いているのを見た。誰だかわからなかった。その後標的が、その花をカバンに静かにしまうのを、廊下の角から見た。

その時私の胸の奥で、あの古い図書館の、あの温かい緑茶の記憶が、一瞬だけよみがえった。

老婦人は何も聞かなかった。ただお茶を置いた。それだけだった。

私は何かを相手に置いたか。

何も置かなかった。削っただけだ。減らしただけだ。

その自覚が、思ったより鋭く刺さった。思ったより、ずっと。

卒業式まで、あと少しだ。

私はまだ、次の手を持っていない。

持っていないまま、時間だけが流れていく。

本山優子の娘として生まれたことは変えられない。でも本山優子の娘のまま死ぬつもりはない、と私はバスの中で思った。

その言葉は今もまだ有効なのか。

わからない。

わからないまま、明日も制服を着て、外向けの笑顔を作って、教室に入る。それだけは確実だ。確実であることの、この薄寒さを、うまく表現する言葉を私はまだ持っていない。私は闇雲に毎日を歩み続けるしかない。

次回更新は7月22日(水)、16時の予定です。

 

👉『who am I』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】「何も気づかなくてすみません…」彼はそう言って、彼女の唇を何度もついばんだ。だが胸が高鳴ったのは、キスのせいだけではなく……

【注目記事】2年間続いた不倫関係…飲みの席で発覚したのは、“自分はセフレでしかなかった”という事実。相手の男は他にも2人の女性と関係を持っていて…

 

ゴールドライフオンラインは、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp