由起夫 ご存じですか? 大林宣彦監督の尾道三部作の第一作、あの有名な『転校生』。
恵一 知らねえ。
由起夫 高校生の男の子と女の子のカラダが入れ替わるのです。だから、甘酸っぱいエモさが湧き上がってくる純愛物語になる。現実はそうはいきませんね。還暦前のイケメンドクターと金髪の暴走族とが入れ替わっても、なんにも起きません。初恋も純愛も。
恵一 何言ってんのかまったく分かんねえよ。ってか、オレがオレの言ってること、これっぽちも分からないって、めちゃくちゃ気持ち悪いんだよ。あんた気持ち悪くないのか?
由起夫 気持ち悪いですよ。ボクが一番好きな映画のことを、目の前のボクに説明しても、ボクは分からないのだから。気持ち悪いっていうよりつらい。……これ、他人はどう感じますかね?
恵一 そりゃあ……オマエ、誰も信じちゃくれない。
由起夫 そうですよね。誰に言っても絶対に信じてもらえない、絶対。だから、騒げば騒ぐほどボクたちは幻覚とか意識障害の重症患者として監視され、検査漬けにされ、そのうち実験材料になる。怖ろしいことになるのです。
恵一 医者のあんたがそう言うんなら、そうかもしれん。どうすんだよ?
由起夫 だから、いろんなことがハッキリするまでフリをするのです。あなたはボクの、ボクはあなたのフリ。たとえ失敗して矛盾したこと言ってバレそうになっても、「まだ記憶障害かなんかが残っているみたいだ」とか言って、誤魔化すのです。そのために、綿密な情報交換をしましょう。
恵一 情報交換?
由起夫 はい。これは映画の撮影だと考えましょう。ボクたちは主演男優なのです。そこで自分じゃない誰かを演じるのです。映画なんか比べものにならないですよ。あれは虚構、作りごとです。でも、私たちは違う! 現実なのです。夢じゃないのです!
恵一 熱く語るじゃねえか、オッサン! ……オッサンって誰だ? くそっ、分かんなくなるぜ。
由起夫 だから、自分は「このカラダの人間なのだ」って無理矢理捻じ込むのですよ。
恵一 しばらくはそれしかないのか。……分かったよ、じゃあ、早速情報交換だ。
由起夫 では、ボクから。ワタクシ山下恵一は、五十九歳、独身、生まれも育ちも東京の世田谷です。ひいおじいちゃんの代から続く医者の家です。なので、ボクも医者になりました。おじいちゃんと父は開業医でしたが、ボクは研究が性に合っていて、この病院のガン治療のエキスパートになれました。自分で言うのもなんなのですが、この病院のスターです。
恵一 素直に自慢するじゃねえか。そこまでなんの遠慮もないと嫌味がないね。で、あんたのところは大金持ちってことを言ってるわけだな?
由起夫 中くらいっていう感じですかね。本当の金持ちは山手線の内側にいます。ボクたちくらいの金持ちは、ご先祖様から受け継いできた資産を守るために頑張らないといけないのです。だから、人脈をとても大事にします。同じような階層の人たちと協力していくことが大切だと、子どもの頃から言い聞かされてきたのです。
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