【前回の記事を読む】バイクでガードレールに衝突して、意識を失った——昏睡状態から目を覚ました私は、顔も身体も…「別人」に変化していた。
オレとボクの秘密
三月八日
上手下手に同時に照明。
マリ お花の水を替えてくるね。
水沢 じゃあ、またあとで参ります。
二人同時に叫ぶ。「そいつはどこだ?」。二人は病室を抜け出し、廊下で鉢合わせになる。互いの顔とカラダを見て、叫び声を上げる。
由起夫 あの失礼ですが……あなた、ひょっとして、清水……由起夫くん?
恵一 あんた、ひょっとして、山下先生かい?
二人は懐かしい友と出会えたかのように強く抱き合うが、ハッと我に返る。
恵一 あんた、オレに何したんだ!?
由起夫 何もしていません!
恵一 なんでオレがオレを見てるんだ? なんでオレがこんなジジイになっちまったんだ? なんで、オレが、オレじゃないんだ? くっそ! あんたが、オレに何かしたから、こんなことになったんだろうが? 冗談だろう? そうだ、事故だろう! 早く元に戻せ! 早くしないと訴えてやる! 医療ミスとかメチャクチャ金もらえるっていうじゃねえか。
由起夫 医療ミスとか、人聞きの悪いことを! 医者はね、おそらく日本中の医者がね、その言葉には激しく反応しますよ。ものすごく敏感です。軽々しく口にしないでください。
恵一 よく見てみろよ。このたるんだ顔は、オマエの顔だろうが?
由起夫 そうです。そのたるんだ顔は、確かに私の顔です。愛おしい。
恵一 気持ち悪いなあ! これがオレの顔だ。イケメンだね。これだから女が寄ってくるんだよな。
由起夫 あのですね。こういうことになったきっかけはなんだったでしょうか? 元を正せば、あなたがバイクで暴走して、パトカーに追われて自爆したことが原因だった。ここに運び込まれたとき、あなたは心肺停止の状態だったわけです。あのとき私が何もしなかったら、助からなかった。ありがとうって言っても、バチは当たりませんよ。
恵一 やかましい! 納得できねえ! オレを納得させろよ。
由起夫 納得したくない人を納得させることは、誰にもできません。絶対に無理ですよ。本当に納得したいのですか?
恵一 ふざけんじゃねえ! オレのカラダを元に戻したら納得してやるよ。そんときは土下座でもして、感謝を捧げてやるよ。
由起夫 分かりました。ようござんす。私もこの医学の厳しい道に足を踏み入れて三十有余年。人様の命を守るために精進努力して参りました。私たちのカラダが元に戻ることができる方策を一生懸命に研究して参りましょうぞ。
恵一 なんの真似だ!?
由起夫 時代劇風に。映画が趣味なもので。
恵一 普通にやれんのか?
由起夫 救命措置で医者と患者が入れ替わるとか、普通じゃないでしょ?
恵一 普通じゃねえ。信じられねえ。