四
地図を指でなぞりながら場所を確認している。
「そうですね、モザンビークは日本の倍くらいの面積があり人口は二千万人強。首都マプートはその最も南にあります。元々はポルトガル領ですが、今から三十年ほど前の一九七五年に独立しています。マドールタイヤはポルトガルのメーカーがモザンビークに進出したものですが、独立後に国有化されたそうです」
秋山は持って来たメモを見ながら言った。
「あっ、そうか、どうも聞いたことがある名前だと思ったが、マドールはポルトガルのタイヤブランドだ。そのポルトガルのタイヤは欧州にはまあまあ出回っているよ。比較的廉価品だ。その技術が入っているということだな。でも国有化された後は自前の技術でタイヤを生産しているということだろうか?」
高倉は物資部で長くタイヤを担当し、中東のあと欧州での駐在経験もあるので詳しい。
彼の疑問に、秋山は、
「現在どこの技術が入っているかは存じません。ちょっと待ってください、シェーンに聞いてみます」
と言って、周辺国担当マネージャーのシェーン・ネッスルに電話をするために、携帯を持ってレストランの外へ出た。
レストランの前の通路は明らかに人が増え、雑然としてきている。
秋山はすぐに戻って来て、
「現在は独自の技術で生産をしているそうです」
と、報告した。
「そうか、ということは品質はあまり期待できないんだろうなあ。それでそのマドールタイヤの問題とは何だ」
「はい、問題はこのマドールタイヤが経営不振に陥っていることです。従ってマキシマ社がこの会社に供給した原材料代金を長期にわたり回収出来なくて、不良債権となっています」
言いながら暗い表情をした。
高倉はそこで一息入れようとした。
「秋山君、このカステルビールはうまいね。もう一本頼もうか」
「はい、私ももう一本いきます。食べ物もつまみ程度を注文しましょう」
秋山はそう言って、
「同じビールをもう二本とアンチパスタを持ってこい」
と黒人ウェイトレスに、かなり高圧的にオーダーした。
高倉は秋山に少し危うさを感じた。