「まるで召使に命令するようだな。もう少し謙虚さをもった方がいいと思うがね。ところで、そのモザンビークでこげついた金額はいくらなんだ?」

と、アンチパスタをつまみ、ビールを飲みながら聞いた。

「はい、去年の八月末時点で三百万ランドありました。一ランドが十八円でしたから、約五千四百万円です。でもこれは九月のマキシマ社取締役会決議で不良債権として損金処理済みです。それ以降原材料の供給はしないことも決議しています」

「それならいいという訳ではないが、一応処理は済んでいるのだな」

「ところがそうはいかないんです、高倉さん。それ以降も同社への原材料供給が続いていたんです。処理後の分が現時点で二百万ランド(三千六百万円)となっています。つまり未回収分の合計では五百万ランド、日本円で九千万円になります」

「えっ、それはどういうことだ」

声が大きくなり、まわりの客が二人を見た。
秋山は少し声を落して報告を続けた。

「実は前社長のケニー・ブライアントが取締役会決議を無視して、原材料供給を継続承認していたのです。そして前社長が去ったあとも、ナンバーツーである経理財務トップのロッド・モーローが引き続き供給を認めていたのです」

七洋商事がマキシマ社株の七〇%を買い取ったときの社長がケニー・ブライアントである。

七洋商事は買収後も、日本人が乗り込むより経験のある現地南アフリカ白人をそのまま残した方が良いと判断した。しかしそれから業績が急速に悪化し、不祥事もあってケニーは社長解任となった経緯がある。

会社を買収したのちに、買収前の幹部をそのまま残して経営を担わせるという安易な方法をとって、業績が悪化する事例は多い。