二人は笑い、ワインを飲んだ。あまり酒は得意ではないが雰囲気を壊したくなかったので、一杯だけ飲んだ。最後まで嫌な空気になることなく、さらりと旅先の出会いを楽しめた。紫はほっとして、部屋の前で別れる時、言った。
「私も楽しかった。おやすみなさい」
正直、朝の彼女に対する罪悪感がないわけではなかった。もし自分が彼女の立場なら、フリーになったかならないかの内に他の女に誘いをかけるなんて、何もなかったにしても不誠実だ。そう思う。
咲元はにっこり笑うと、
「良かった。ゆっくり休んで。おやすみ」
今夜は大浴場に行く気がせず、部屋のシャワーで済ますと紫はベッドで先ほどまでの余韻に浸った。しかし連絡先も交換していなければ、明日の朝約束しているわけでもない。本当に、さっきの挨拶で終わりなんだ。
それでいい、楽しかったから。
次の日、前日と同じ八時半頃、紫はバイキングホールへ下りた。咲元も前日と同じテーブルにいた。紫はドクンと胸が波打つのを自覚した。待っていてくれたのだろうか。恋してしまったかも、知れない。
「おはよう、よく休めた?」
実は興奮してあまり眠れなかった。
「ええ、咲元さんは?」
「おかげさまで。歩いたし酒強くないしね。昨日はちょっと飲んじゃったし」
「私も、あまり飲めないから、危ないと思ってシャワーだけにしたの。あ、料理取ってくるね」
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安物で囲まれた我が家に帰り、家事をしていたら夢から覚めたような気がした。だから彼といた証として、携帯を手放せなかった。
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