「帳簿の表面は美しく整えられている。だが、数字を深く読み解けば、不自然な血流が見えてくるはずだ。……これが『令和の反社』が仕掛ける寄生術だよ。宿主である会社を殺さない程度に、内側からゆっくりと、確実に食い尽くす」

――新事業を拡大した時期と重なっている。そんな前から、あの男の指先は食い込んでいたのか。

保常は真っ黒に塗り潰したメモを見つめたまま、言葉を絞り出した。

「役員の顔ぶれが年ごとにコロコロ変わり始めたら、もう末期だ。あいつらにとって、会社なんてのは中身のない『箱』にすぎない。名義と金の窓口さえ握れば、実体はどこへでも移せる。外から見えるのは、ただのきれいな『表札』だけになるのさ。……うちの古本屋の背表紙と、似たようなもんだがな」

柊は、暗い霧の先にいた敵の正体をようやくとらえた気がした。

「関東エナジー開発も……まったく同じ筋書きで動かされている、ということですね」保常は答えず、ただ冷徹な現実を認めるように、深く頷いた。

「お前のほうがよく知ってるだろ? 社長の東雲浩太郎、あいつは昭和の浪花節(なにわぶし)みたいな男だ。義理人情に厚く、受けた恩義は必ず返す。そういうお人好しどころに付け込まれたんだ。まあどこの会社も二代目交代時期にいろいろあるだろう。そのタイミングは懐に入り込む絶好のチャンスだから、盃を交わす何かがあったに違いない。

神代にはあの頃から十分な金があったはずだから成長優良株として投資したとかじゃないか。浪花節社長からすりゃ『このご恩は決して忘れません』――まっ、そういうことだ」

柊は短く息を吐いた。確かに相手のやり口も巧妙だが、二代目になったばかりのお坊ちゃま社長の無垢(むく)な義理人情の振る舞いは、神代の目には滑稽に映り、さぞ笑いが止まらなかっただろう。

加納はどんな思いでこの件を調べていたのか。エリート一直線の彼には信じがたい出来事の繰り返しだったのではないか、と柊は想いを馳(は)せる。

彼が入るずいぶん前からだから誰も気がつかず、副社長が忠告したところで今の役員たちにはちんぷんかんぷんで相手にはされなかったはずだ。むしろ加納が悪人扱いされかねない。誰にも言えず一人でなんとかしようと思っていたのだろうか。柊は保常に聞いた。

次回更新は5月6日(水)、8時の予定です。

 

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