「いつから?」
「4日くらい前から、急に」
「急に増えた体重は脂肪じゃないね。水だね」
「水?」
「体に溜まってる」
そんなバカな、と思ったが、足首を指で押されると、へこんだまま戻らなかった。
「ほら」
「うわ」
「典型的なむくみ」
医師はモニターを見ながら、眉をわずかに動かした。
「血液検査、急ぎで回します」
その言い方が少しだけ不穏だった。
1時間後、名前を呼ばれた時、診察室の空気はさっきより重かった。
「腎臓の数値が悪い」
「どれくらい?」
「かなり」
“かなり”は便利な言葉だ。曖昧なのに、逃げ場がない。
「今日、このまま大きい病院に行って」
「今日?」
「紹介状書くから」
「え、仕事――」
「今それ言う人、だいたい入院する」
医師は冗談っぽく言ったが、目が笑っていなかった。
紹介状の封筒はやけに分厚かった。重さは紙なのに、内容はたぶん軽くない。
母に電話した。
「当たり。腎臓だって」
「だから言ったでしょ」
母の声は静かだった。予想していた声だ。
「すぐ行きなさい。バッグ持ってる?」
「え?」
「入院用」
「大げさ――」
「持って行きなさい」
その“言い切り”が、後でどれほど正確だったかを私は思い知ることになる。
紹介先の総合病院は、空港みたいに広かった。
受付、検査、診察。再び採血。再び尿検査。点滴をつながれた時点で、もう帰宅ルートは消えていた。
若い医師が結果を持ってきた。
「急性腎不全の疑いがあります」
言葉は穏やかだが、内容は穏やかではない。
「疑い、ってことは?」