汗が一層噴き出し、早口に拍車がかかる。柊は淡々と言葉を続ける。
「なるほど。……そういえば副社長に依頼されていた調査の件ですが」
「ああ、それね。何しろ、副社長がいらっしゃらないと誰も事情が分かりませんから。もう忘れちゃってください」
明らかに何かがおかしい。仮にも副社長が亡くなったというのに、いつもとまったく変わらない社内の様子も、川本のいつも以上の饒舌(じょうぜつ)も。そして何より、会社全体が自分の存在をどこか警戒しているような気配も、柊にはおかしく感じられた。
柊はおざなりな挨拶を残して応接室を出ていった。
駐車場に戻った柊は、愛車の扉を開け、シートに腰を下ろすとふと考え込む。
――なぜ会社は、加納の死を公にしようとしないのか。
――社員たちはなぜ加納の存在をなかったことにしようとしているのか。
柊はハンドルを握りしめながら想いを巡らせ、エンジンをかけ、静かに車を発進させた。
3
加納の葬儀から1週間が過ぎていた。少なくとも柊には現時点で直接的に会社が加納を排除するような理由は思い当たらなかった。
「折り入って相談が」という恵子からの電話に、柊は自宅で会うことを提案した。難しい話になるのは予想できたし、何より誰かに聞かれることは避けたかった。
リビングで黙って立っている恵子を察し、柊の妻である雅子(まさこ)はエコバッグを片手に声をかける。
「ちょっと買い物に行ってくるわね。奥さん、ごゆっくり」
静まり返ったリビングのソファに腰かけた柊は、早速話を切り出した。
「加納さんのことで、というお話でしたが」
「ええ。……こんなこと、柊さんにお話しするかどうか、ずいぶん迷ったんですけど……ほかに相談する人もいなくて」