土曜日の稽古は、三ノ宮の文化センターだった。神戸に来てすぐ、嵯峨御流の花を習えるところを探し、ここを見つけた。嵯峨御流は大学のクラブで始め、卒業してからも教室を見つけ、八尾でも習っていた。母は花が好きだった。母がいた間、家にはいつも花があった。私は花を続ける事で母を想っている。

この日の花は、丹頂アリウムと百合と鳴子百合とガーベラの盛花だった。私は、つい、神矢の事を考えてしまい、花に集中できなかった。

「木村さん。どうしたの? いつも一番早く生けるのに、今日はずいぶん遅いわね」と、野原先生が微笑みながら話しかけてこられた。優しく品のいい四十代の野原先生は、私の憧れだった。

「百合がちょっとうつむきすぎよ。直してもいいかしら」
「はい。お願いします」と、私は椅子から立ち、野原先生が椅子に腰かけられた。

「うーん。アリウムも、あっちこっち向いてまとまらないわね。これは、こっちに向けて、百合はこう少し立ててあげて。どうかしら?」

「ええ、ありがとうございます」
「良かった。木村さん。今日はうつろね。貴女、恋でもした?」

「えっ!?」

「若いんだから、いい恋をしてね」と言って、また微笑んで行かれた。