第七章 子供ができるということ
ハギとの結婚が決まった時、祖母は姑に懇願した。
「この子はお母さんがいませんので、どうかこの子のお母さんになってやって頂けませんか」
姑は普段と違うしとやかな物腰だったが、小さく笑っただけだった。
私が結婚で実家を出ることになると、もうこの街にいる理由もないと、祖父母も田舎のマイホームへと帰って行った。実家は名義人の父によってすぐに売り払われた。もう何年も帰ってきていないが、売却のタイミングを今か今かと待ち侘びていたようだ。
私もハギと通勤圏内に新居を構えたが、祖父母の家はそこから片道八時間もかかる距離だ。親同然の祖父母と離れることになり寂しかったが、新たに姑という母親ができ、私は少し嬉しかった。
「親ナシはやっぱりダメだねえ」
そんな心無い言葉を聞くまでは、姑とも本当の親子のようになれるのではないかと期待してしまった。母親と仲良く買い物に行く友人に嫉妬した。
宮本さんも無職同然の男と若くしてデキ婚ができたのも、親元で万全のサポートが受けられたからだ。彼女は今も子供を実家に預けてはコンビニでパートをしていた。
たまに遊びに行くと、夫が不倫していたことや、パチンコで借金を作ったことなどをあっけらかんと話すのだった。まさに私が見た通りの宮本さんの未来そのままだ。
しかし私は自分の未来は全く見ることができなかった。実家のない私は里帰り出産も叶わない。祖父母はもう高齢だ。育児のサポートをしてもらうより先に、彼らの介護の方が必要かもしれない。
子供を気軽に預けるあてもないため、出産後は働くことも難しいかもしれない。そうなれば子供のために貯蓄も必要だ。望まない妊娠、その結果の仕方なしの結婚。なんの準備もなく子供を迎えるなんて私にはできない。