【前回の記事を読む】手にはまだ生温く、粘り気のある液体の感触…気づくと警察署にいて、「先程起きた事件のこと覚えていますか?」と聞かれた。

第一話 出会い 

「それよりさ、今日お弁当ない日だから学食付き合ってね。四時間目、授業何だっけ? 早く行かないと混むよね」

「あんた相変わらず男子に興味ないよね。まさに色気より食い気じゃない」

ブレザーのポケットから小さな鏡を出して前髪を整えていた莉央が、後ろを振り返り呆れた様子で私を見る。

四時間目の授業が終わると、私と莉央は本館にある学生食堂へ向かった。同じく、お腹を空かせて食堂に向かう生徒たちの波に流されるように歩いていると、少し前を歩く渡辺海斗(わたなべかいと)と永井光輝(ながいこうき)の姿が目に入る。クラスは違うが、彼らとは中学からの付き合いで、気の合う四人はよく一緒に行動していた。

「ねぇ、あれ海斗と光輝じゃない?」

莉央は私の手を掴むと歩く速度を速め、海斗と光輝に追いかける。

「よっ!」莉央が光輝の肩を叩いた。

「おぉ、おはよー。お前ら今日学食?」

振り向いた光輝は私たちに歩幅を合わせる。

「うん。今日お弁当ないから。そういえば、今朝遅刻した?」

私は朝彼らに会わなかったことを思い出した。

「電車一本乗り遅れたんだよ、こいつが……」

海斗が横目で睨みながら光輝を指さした。

「もしかして待ってたの?」

目を丸くした莉央が海斗の顔を覗き込む。

「ギリ遅刻しなかったけど、朝から坂道ダッシュして死ぬかと思ったぜ」

「海斗は俺の親友だからな。俺を見捨てたりしないんだよ」

光輝はそう言うと海斗の肩に腕を回す。海斗は迷惑そうにその腕を睨み、払い退けた。

「というわけで、今日の昼飯は光輝の奢りだからな」

「え? なんで俺の奢りなんだよぉ~。冗談だろ?」

足を止めた光輝の横を次々と他の生徒が追い越していく。

「お前のために朝から坂道ダッシュしたんだぞ? 胸張って親友っていうなら飯を奢るくらいなんてことないだろ」

「えぐっ……」

返す言葉が無くなった光輝は、への字口で海斗の後を付いていく。

「あんたたち仲良いよねぇ。ま、私たちも負けてないけどね」

ふたりのやり取りを嬉しそうに見ていた莉央は、私の腕に自分の腕を絡めると、リードするように食堂へ向かう。

広い食堂にはおよそ五百席のテーブルと椅子が並べられていて、次々と生徒で埋まっていく。食堂には食欲をそそる匂いと、多くの話し声と笑い声が入り混じり、とても賑やかな雰囲気だ。

私たちも空いている席を見つけて座ると、食堂のメニューや持参した弁当を食べながら、束の間の休憩時間を過ごす。やがて昼食を終えた生徒が少しずつ教室へ戻り始め、ほぼ満席だったテーブルに空席が目立つようになる。