沙織のアカウントはすぐに見つかった。フォロワーが3000人以上いる。華やかな写真が並んでいる。海外旅行、ブランド品、パーティー。よし子とは住む世界が違う人だった。

最新の投稿は2時間前。

写真には、雅彦と沙織が並んで写っていた。料理屋のカウンターで、日本酒のグラスを傾けている。沙織が雅彦の肩にもたれかかるように座り、2人とも笑顔だった。

キャプションにはこう書かれていた。

『山あいの隠れ家で、大切な人と素敵なひととき。雅彦さんの話はいつも面白い。もっと早く来ればよかった♪』

大切な人。

(大切な人。大切な人って書いてある)

スマートフォンを持つ手が震えた。画面が涙で滲んだ。

仕事の話じゃなかったの。事業の相談じゃなかったの。何が「大切な人と素敵なひととき」よ。

理性では分かっている。SNSの投稿なんて脚色されている。沙織が勝手に書いたことだ。雅彦に悪気はない。でも、感情がついていかなかった。

(頭では分かってる。分かってるけど、こんなに苦しい。なんでこんなに苦しいんだろう)

23時過ぎに雅彦が帰ってきた。少し酒の匂いがした。

「ただいま。遅くなってごめん」

「おかえりなさい」

平静を装った。でも声が硬かったのだろう。雅彦が怪訝な顔をした。

「どうかした?」

「何でもないです」

「何でもない顔じゃないけど」

「何でもないって言ってるでしょう」

語気が強くなった。自分でも驚いた。雅彦も目を丸くしている。

(なんでこんな言い方を。自分でも分かってる。でも止まらない)

「よし子さん——」

「ごめんなさい。疲れてるだけです。先に寝ます」

布団に入って背を向けた。雅彦が何か言いかけたが、やめた気配がした。しばらくして隣に布団を敷く音がする。

「おやすみ」

雅彦の声に、よし子は答えなかった。答えたら泣いてしまう。