第2章 夫婦問題の解決
(1)100年人生における夫婦の役割分担交代のススメ
▼長い人生の転職実話
最初に人生100年時代に向けて、奥様のために55歳で転職した男性の人生変革とその夫婦愛の実例について述べたいと思います。83歳の礼二さん(仮名)は、私の診察室に入るなり、「先生、元気ですね」と、満面の笑みでおっしゃる。
「それは、私のセリフです。礼二さんの笑顔に私の方こそ元気をもらえますよ」
そんな軽口が言えるような爽やかで気の置けない雰囲気をいつも周囲に醸し出していらっしゃる。身なりはいつも小ぎれいだ。晩秋の今日は厚手の淡いピンクの長そでシャツに、茶色のデニムのパンツ、襟元からライトブルーの薄いスカーフをのぞかせ、オシャレを十分に楽しんでおられます。
礼二さんは、3年ほど前より高血圧で私の外来を受診し、折に触れ同じ年の奥様のことをお話しされていました。奥様は50代より、腰椎の病気で腰痛や歩行困難が強くなって身の回りのことや家事が次第にできなくなっていました。
そこで礼二さんは決心したのです。夫婦にはお子さんがいませんでしたので、これからは奥様のそばにいて、家事や身の回りのことなど、奥様の作業を積極的に分担しよう、そして、二人とも絵本が大好きでしたから、自分たちで絵本の専門店を持とうと思い立ったのです。
1年半ほどの準備期間を経て、礼二さんは会社勤めを辞めました。自宅を改装して、絵本を中心に扱う小さな本屋をオープンしたのです。
礼二さん55歳のときです。それからは、絵本の読み聞かせ会などのイベントも行い、しっかり地域社会に根ざした交流を夫婦二人で続けてきました。