【前回の記事を読む】大学の屋上でうとうとしていると、「……くん」と声が…はっと目を覚ますと、目の前に…
第五章「居場所」
屋上に入れることも僕が雪野さんに教えてお昼や空き時間になるとここに来ては、たわいのない会話をする。
──そうだ。雪野さんの姿を見て、朝の授業のときに同級生たちが話していたことを思い出す。
「あのさ……」
「うん?」
「昨日、雪野さんのゼミで飲み会があったんだよね?」
「うん、教授と先輩たちも一緒に」
「それで……」
少し僕はためらってしまう。僕たちは毎日一緒にいて、周りからは『付き合っている』なんて噂されているが、実際はそうじゃない。だから雪野さんに好きな人ができたとか、彼氏ができたとか、そういうことがあっても何かを言える立場じゃない。
でも、昨日の飲み会で文学部の先輩が一次会のあとに雪野さんを誘って、二人とも二次会には来なかったらしい。二次会のお店で僕と仲がいい友達がアルバイトをしていて、そのことを知ったというのだ。みんな僕に気を遣って直接は言ってこないが、正直丸聞こえだった。
「飲み会がどうしたの?」
「……いや、雪野さんお酒弱いからさ、大丈夫だったかなと思って」
やっぱり言えない。とっさに適当な話を続ける。
「大丈夫だよ。教授もいたから無理に飲まされることもなかったし」
「……そっか、そうだよね」
必死で笑顔を作るが、雪野さんには僕が本心で話していないことがばれているのか、納得がいかないという顔をしている。
「なんか隠してる」
「か、隠してない。心配だったけど、大丈夫ならよかったなって」
鋭い口調と疑う視線におどけてしまう。
「…………」
「いや、その……」
はあ、と大きくため息をついた彼女は、フェンスに寄りかかって再び僕の方に向き直る。
「誰かから昨日のこと、聞いたんでしょ」
「──なんでそれを」
「もう九年も一緒にいるんだもん、黒田くんの様子を見れば考えていることなんかすぐにわかるよ」
「……そう、だよね。うん、実は聞いちゃって」
やっぱりね、と言った彼女は少し悩んでいたが、小さく頷いたあと僕から目をそらし、少し遠くに視線を送る。
「……先輩にね、このあと二人で抜け出して一緒に家で飲まないかって誘われたの」
「…………うん」
「結構強引に誘われて、私、断れなくて……」
その言葉を聞いて、こらえられない怒りの気持ちが込み上げてくる。雪野さんの言い方ではきっと乗り気じゃなかった。優しさに付け込んで、断れないことをいいことに無理やり自宅に連れていったのか?
「──そんなの絶対に許せない!」
激しい苛立ちの感情に任せて、彼女の肩を強くつかんだ。しかし、当の本人はなぜかきょとんとした表情で僕の目を見つめている。