しかしJJは「それがね、物事はそう簡単ではない」とまた首を振る。
「モジュールはね、人類が木から降り始めた頃、まあ今から二百万年ほど前として、その頃からずっと変わらなかった。それはある意味いまでもね」
JJは考古学者らしく、石器を例に説明した。
「人類が人工物か欠けた石ころかも判然としない、その程度の石器を作りはじめたのが、さっきも言ったとおり二百万年ほど前。そこから百万年ほど費やしやっとハンドアックス、握斧ができ、さらに八十万年を要して剥片石器に転換したね。あのルヴァロワの石器は、もう十数万年ほど経ってから。その時点で、ようやくいまから七万年ほど前。
ここまでは石器造りのモジュールの指示だね。つまりおよそ二百万年間、モジュールはほとんど変わっていない。この頑固なモジュールが突然意識に進化したとするのは、ちょっと無理があるでしょ」
確かにそうかもしれない、と唯井も納得した。
ところがこののち、世界は一気に劇的に現代へと向かうという。
人類の進化は二百万年ちかく停滞し、その後わずか七万年間で花ひらいたことになる。
驚くべき緩慢とそれに続く奔流。飽きるほどの停滞と激しい変化。この原因はなぜなのか。
「そのひとつはね、良くも悪くもモジュールのもつ性質のせいなんだよ」
多数のモジュールの働きにより、意識のない人類はサバンナで猛獣に伍してなんとか生き延びてきた。ところがそれが裏目となった。
「どのモジュールも素早く起動し全開しようとしてね。だから互いに壁を作って独立してしまった」と言って例をあげ説明をする。
「地を這う黒い陰を見て〝ヘビだ!〟と認め身をかわす。ここまではいい。でもその情報は、そののち危険回避のモジュールに伝わることがなかった。だからそこが『しずかに、きをつけろ』という場所にならなかったね」
「じゃあ、石器造りの場合は?」
「石器のモジュールにとって、石だけが〝武器〟で、木の枝はゴミね。逆に、採集のモジュールにとって、木の枝は遠くの実を落とす便利な〝道具〟。だから、石器を木の柄にくくり付けた〝石斧〟や〝槍〟という〝武器〟は、ながく作られなかった。いまでもよくあるバラバラのなんとかだね」
これは遺跡の人工物を調べたうえでの事実で、その時代に石斧の痕跡が出てこない、という。
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