気づくと、後ろにも人だかりができている。しかし、その中にも子分はいない。再び火元へと視線を向けると、自分と同じように誰かを探しているであろう男の姿が目に入る。
火が、男の容貌を照らし出していた。見覚えはあるが、すぐには思い出せなかった。しかし、火の勢いが目に見えて衰えた際に湧き起こった群衆の声で、そのときの場面が頭に浮かんだ。秋競馬の最終日、巡査と小競り合いを起こした男に間違いない。
工藤に小突かれたことからすると、二人は以前から知っている間柄で、土地の持ち主、三村であることも考えられる。浅田は、野次馬たちを掻き分けて人だかりを抜け出ると、現場から立ち去った。
向かったのは丁半博打を開帳している、保土ヶ谷の一軒家だった。万一のときに落ち合う場所として、一家の者には予め示し合わせてある。
普段は賭場を立てるためにしか使用していないため、表通りに面した戸や窓には板を打ち付けて、空き家を装っている。裏口から入れることを知っているのは、一家の者と、賭場を訪れたことのある客だけのはずだった。
夜明けが訪れる頃合いになって、裏口の引き戸を叩く音が聞こえた。二回叩しんばいた後、一拍空けてから三回叩く。一家の者に教えてある合図で間違いない。
かましておいた心張(しんば)り棒を外して、引き戸を開けると、前には子分である北山が立っていた。昨年の秋競馬での噂を聞きつけて一家に加わった、新参者である。浅田は工藤の引き合わせで、一度だけ顔を合わせていた。
北山の背後には三人の男が立っている。一人は火事の現場で見かけた、誰かを探していた男で、ここに来たということは三村と考えるべきだった。他の二人の顔は知らないが、おそらくは渡世人であろう。三下独特の雰囲気を漂わせている。