そこではじめて高倉に事態が把握できた。
撃たれたのはカウンターの中の二人であった。二人共二メートルぐらいの至近距離からマシンガンをぶっ放されて、蜂の巣になっている。
うめき声も立てず、砕けたガラスとウイスキーまみれで横たわっている。背の高い方の縮れ毛の頭は半分近く吹っ飛んでザクロのようだ。マシンガンの威力をまざまざと見せつけられた。
救急隊も救助をすぐに諦めた。
あとでわかったことだが、カウンターの中の二人はクリスチャン・コマンドのメンバーで、ガンマンはこの二人を狙って来たらしい。おそらく敵対するムスリムのコマンドであろうとのこと。
バーテンダー二人だけを標的にしていたことは、高倉ら客にとっては非常に幸運だった。
マシンガンはソ連製のカラシニコフAK四七で、中東を暗躍する武器商人の目玉商品だそうだ。
セキュリティー・フォースの現場検証が始まった。
なんと、カウンターの下には二丁のマシンガンが置いてあるのがわかった。
もし店の中で撃ち合いになっていたら、客も巻き添えになったのは確実だ。
あらためて高倉の背筋に冷汗がしみ出した。
やがて大河原と高倉は客であり、日本人であることがセキュリティー・フォースによって確認され、他の客ともども解放された。
その間どの位の時間が経っていたのだろう。
あっという間の出来事だろうが、高倉にはかなり長い時間だったように感じられた。
バーの外へ出るとめずらしく雨がふっていた。二人はさめやらぬ恐怖に震えながら、雨の中を後ろを振り返らず、走らず、しかし急ぎ足でホテルへ向かった。
「大河原さん、やばかったけど何とか助かりましたね」
「うん、助かった、良かった」
大河原はホテルからタクシーで彼の家に帰った。
高倉はホテルの部屋に入りベッドに横になると、あらためて恐怖が蘇り、身体の震えが止まらなかった。そして生きていることを再確認するように呟いた。
「あー、助かった……」