一方、滑り止めとはいえ当時の中央大学法学部は文系私大のトップであり、司法試験合格者数は東大と抜きつ抜かれつのまさに私立大学の雄といっても過言ではなかった。
しかし初めての東京生活で上から下まで夢のような暮らしの存在を知った相川は、同級生たちの泥臭い司法試験勉強の生活に次第に魅力を感じられなくなり、身の程知らずな夢を抱くに至った。外交官を目指したのだ。
しかしそれは途方もない誤りで、卒業後2年かけてようやく面接試験にたどり着くまでが精一杯だった。ここでもまた、滑り止めで受験した東京都庁にようやく潜り込み、学校事務という落ちこぼれ職にありついたのだ。
遊びのついでに働いているような生活を楽しみながら心の中では大きな挫折と自己実現の夢のない空虚なニヒリズムのないまぜになった心境にあった。
当然の結果かもしれないが、酒での失敗も重ねた。近所の魚屋が余業で居酒屋を始めたので常連となったが、ある晩、角田と飲んでいると顔見知りの不動産屋の社長が同席した。軽口をたたいていると酔って気が大きくなった社長は二人に人生訓を垂れ始めた。
曰く「俺の資産は俺一代で築いた」「無一文から成りあがったんだ」「挑戦しない人生など無駄だ」「お前ら公務員はたるんどる」「9時から5時まで座ってりゃいいんだろ?」「若いのに夢をなくした人間に価値はない」最初は受け流していたが最後のフレーズはささくれだった相川の心を突き刺した。
怒りと屈辱で目の前が真っ暗になった相川は衝動的にカウンターの隣の社長に裏拳を放った。社長は椅子から転げ落ちて床にたたきつけられた。慌てて止めに入った角田のあごにはストレートパンチを見舞った。なおも社長につかみかかろうとしたところでついに魚屋の大将に後ろから羽交い絞めにされて我に返った。
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