【前回の記事を読む】「そんな… 。私、子どもの扱いなんてわからないよ」同僚に5歳児の子守を頼まれたが、全く自信がない独身の私は…
涙のあとに
太陽がさんさんと降り注(そそ)ぐ二〇一五年八月、さやかは数か月前、六年半にわたって交際していた彼氏と別れた。最初は泣いてばかりだったが、最近ようやく立ち直りつつある。というのも、勤務先で好きな人ができたからだ。
さやかはアパレル会社で営業事務をしている。前年の春に新卒で入社した。好きな人は一年先輩で、岡嶋さんという。一緒に仕事をしていく中で、だんだん意識するようになった。
以来、積極的に話しかけたり、岡嶋さんを含めた仕事のメンバーで、オフィスの近くのレストランへランチに出かけたり。岡嶋さんのことを少しずつ知っていき、距離を縮めながら、今はまだ片想いだけれど、もう二十四歳だし、結婚に結びつけたいと、そう思っていた。
さやかは、中学生の頃から日記をつけている。
〝会社に好きな人がいるって楽しい〟
そんな思いとともに、ある日そこに記しるしたのは、
〈岡嶋さんには、いいところだけ見せたい〉
という内容だった。
ヘアコロンをつけ、耳にはピアスをつけ、もちろん化粧も完璧(かんぺき)にして出勤する。そして、かかってきた電話には、明るく受け応えをする。
〝この姿、見てほしい〟――。
そんなあるとき、いつものように電話が鳴った。取ると取引先からで、上司宛の電話だった。その上司は、あいにく席を外していた。
「……はい、では私、徳永が承(うけたまわ)りました」
さやかは、そう言って、相手が電話を切ったのを確認してから受話器を置いた。
〈本日の取引先で行なわれる商談の時間が変わり、十三時から十一時になりました――〉
と、メモを書いていると、先輩社員から、
「大口の発注と伝票入力、午前中までに終わらせてくれる?」
と依頼された。時計は九時半を指していた。