長谷川部長の最初のマネージメント会議のため事業部長室に隣接する会議室に10時5分前位から部長たちが集まって来た。

一番最初に顔を見せたのは、就任挨拶の時は出かけていたマリン営業部長の三村で会議室に入る前に秘書の塩見に「席順は決まっているの? これまでと同じでいいのかな」と一応確認した。

塩見からは「これまで通りの席にお座りください」と言われたので「了解です」と言い、部屋に入って行った。三村には今日の定例会議で新任の長谷川をじっくり観察しようという目論見があった。表情には傍から見ていても余裕が感じられた。

続いて大河原が産業資材部長の内田と何やら笑顔で会話しながら入った。さらにマリン設計部長が営業次長の大木を伴い、続いて食品機器部の前澤そして篠原が入室、競馬場のゲートインの如く所定の席に座った。

前澤は事業部の中では若輩で2年前に部長に昇進したばかりで、会議室での席次は事業部長からは一番遠い末席が指定席だ。

前澤は先日の就任の顔見世挨拶の際の事、些細なことで顔を赤らめて動揺した長谷川の人間性を見極めようと別の所に視点を置いていた。

塩見は全員が揃ったのを見て、長谷川に声をかけた「皆さんお揃いです」

長谷川は緊張した様子で身の回りを見渡し、忘れ物がないか椅子から立ち上がり左右を何度も見渡した。

そのしぐさは、就職試験の面接にでも行く前の若者の立ち振る舞いのように塩見には映った。

会議室は茶系に統一されており、少し薄暗く感じられるが、落ち着いた間接照明の部屋の真ん中に大きな長方形のテーブルがどんと構えていた。壁面の構造は外部に音が漏れないように防音の工夫がされていた。

長谷川が部屋に入って来た時、最年長の内田が周囲を見渡し、すっと立ち上がり、それを見た他の部長も何か示し合わせたように立った。長谷川が背もたれが他の椅子より高い椅子に着席するのを見て、一礼してそれぞれが着席した。

事業部長の椅子は黒い革張りで左右にひじ掛けがあった。誰が見ても座り心地がよさそうに見えた。会議室はシーンと静寂に包まれた。