美羽は、朝起きて、朝食のトーストと卵、牛乳を摂(と)り、どんなに時間がなくても、必ずメイクをしてから出社する。メイクは、下地を塗(ぬ)り、ファンデーションを重ね、シャドウ、チーク、マスカラ、そして最後にグロスを塗る。化粧品は、すべて自社製品だから、いいものを安く手にできる。それから耳にピアスを入れる。そんな毎日を過ごしていた。

美羽は幼い頃から、おしゃれをすることや化粧に興味を持っていて、母親が化粧をする様子をじっと見ていた。

「お化粧はね、女の人を、きれいにしてくれるの。美羽も、大人になったら、好きなだけお化粧しなさい」

高校生になり、ファッション雑誌や友達の口コミをもとに、化粧品を研究するようになった。身長が一五七センチと、それほど高くないし、髪も天然パーマで、コンプレックスに思っていた。でも、そんな自分を化粧は、努力次第でいくらでも変えることができる、魔法の道具だと気づいた。

失恋から一年過ぎた社会人生活三年目の冬、高校の友人である真実から、年末に同窓会が開かれると知らせがあった。

「どうせ年末には、千葉に戻ってくるんでしょ?」

「その予定だけど」

そして出席すると返事をした。

年末になり、仕事納めをし、千葉へ戻る。大学は東京だが、実家は千葉にあるのだ。同窓会の会場は、とあるホテル。美羽は真実と待ち合わせをして、近くのコーヒーショップの化粧室で化粧直しをしてから一緒に会場に入った。

「久しぶり」

一人の男性に声をかけられた。男性の名前は櫻井淳史。

「卒業以来だよね。元気にしてる?」

「まあ、元気だよ」

美羽は、この人はどちらかというと、苦手なタイプだった。ちゃらちゃらした雰囲気が、どうもいけ好かない。

この日は、失恋する前によくしていたピンクが基調の化粧ではなく、二十五歳の年齢に相応(ふさわ)しい、大人っぽい化粧をしていた。

「このあとの二次会、行く?」

そう彼に訊(き)かれて、一次会で帰ると言う真実と別れ、美羽は誘われるままに、二次会のカラオケに行った。

「今何してるの?」

美羽は櫻井に尋たずねる。

「今は、公務員めざして、アルバイト生活。桐山さんは?」

「私は、化粧品メーカーで営業」

「連絡先、訊いてもいいかな」

連絡先だけならと思い、美羽は櫻井と連絡先を交換した。

次回更新は2月2日(月)、21時の予定です。

 

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