【前回の記事を読む】「顔がない写真で、なぜ誰かわかるんです?」…見せたのは遺体の一部なのに、近所の人は「だって、あの子いつも…」
赤い鞄
「加賀さん今日は珍しく外回りですか?」
ヤクザの抗争事件に走り回っている高橋が、嫌味を含んだ口調で加賀に話しかけた。
「お前さ、嫌味を言うのは百年早いぞ」
高橋の言葉を冗談でかわしながら今日の出来事を話した。
「ヘェ~服装だけでわかるって、本当に年がら年中あのワンピースだったんですね」高橋は書類を整理しながら答えた。
「お前は捨て子って言ったけど、普通捨て子って本人の記憶がない年じゃないか?」と言いながら、その意見に食いつき署を出て行った自分の有様を思い浮かべた。
「じゃぁ、両親もしくは片方の親はあの子の死を目の当たりにしていた、ということは死体遺棄(いき)になるじゃないですか」
高橋に言われ、それも一理あるなと頷いた。「ごじゅうえん」とみよこが書いた小さな紙切れが、加賀の頭の中に浮かび上がりぐるぐると回り始めた。高橋は上司に上げる書類に手をつけ始め、それどころじゃないという雰囲気で加賀を軽く睨んだ。
「もういいよ」
加賀は引き下がり、机の上の誰が入れたかわからぬが、時間が経ち過ぎてミルクが分離してしまったぬるいコーヒーを一口に飲み干した。
みよこはまだ小学校に上がっていなかっただろう。ならば来年あたりは新一年生として真新しいランドセルを背負い、桜舞い散る道を歩いていたに違いない。
だがみよこはもうこの世には存在しない。みよこが発見されたのは二月半ばで、雪が降ってもおかしくない気温が続いていた。
第一発見者である黒田忠(くろだただし)は土砂を運ぶトラックの運転手だった。借家住まいの黒田は、自前のトラックを駐(と)める駐車場を確保できず、少し離れたこの空き地にいつも仕事が終わるとトラックを駐めていた。
前の晩六時にここへトラックを駐めて家に帰り、翌朝五時に仕事へ行こうとトラックに乗り込んだら後部の仮眠スペースにみよこがいた。これが黒田の調書に書かれていた内容だった。
トラックの鍵はどうしていたのだという警察の質問に、駐めていた場所が近くだったからわざわざ鍵は掛けていなかった、というのが黒田の言い分だった。そして、みよこが包まれていた毛布に見覚えはない。自分のものではないと黒田は主張した。