美代子には思い当たる節もあった。スペイン旅行から帰ってきて、入浴介助を申し入れたり、パエリアの料理を作ったりして、美月さんの女心に火を点けてしまったのかもしれない。山形家に家政婦として来て悠真さんの介護を献身的に姉弟のように接してきたといえども、女の部分がどこかでくすぶっていたのだ。そのように分析していた。
「ごちそうさま、美味しかった」
「良かったですね。そうだ、今日は悠真さんの定期健診とリハビリなんです。出かけるついでに何か買うものありましたらどうぞ」
「ありがとう、特にないわね。今日、私も久しぶりに友達と会うことにしているの、結婚前に会って以来だから楽しみなのです」
気のせいかもしれないが、美月の応対がいつになく瞳が輝いていて、明るく感じた。心の片隅では女性にありがちなホルモンが作用しているのかもと思いながら、少し意地悪な質問をした。
「美月さん、何かいいことでもありました?」
「どうしてですか?」
「いつもより、肌つやがいいから」
「いやですよ、もう四十のおばさんですから、からかわないでください。美代子さんにはかないませんよ」
二人は顔を見合って大きな声で笑った。
次回更新は12月10日(水)、19時の予定です。
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