【ある日の教室2】新・人間の教育

コウ先生は老年に入ったが、自分のことを若いと勘違いしている。学生たちの前で堂々と

「心は二十歳だ」

と大きな声で言い放っている。学生たちは、お利口さんだから、我慢して聞いている。

たまに、

「可愛い」

と学生から言われて、ピョンピョン跳んで身体全体で喜んでいる。

可愛い学生たちから、年に数回

「可愛い」

と言われているのだからね。一度だけだが、高校生からも言われたことがある。どこかに魅力があるのだろうか。それとも単純で幼稚なのであろうか?

コウ先生は学生へ聞いた。

「カントは、知っているか」

カントはドイツの有名な哲学者である。

学生は言った。

「知りません」

コウ先生は言った。

「カントも知らんとか」

学生は言った。

「それでは、先生は知っているのですか」

コウ先生は言った。

「人間は、教育を受けなければならない唯一の生物(被造物)であると言った哲学者だよ」

学生は言った。

「なぜ、人間は、教育を受けなければいけないのでしょうか。教えをいただきたい」

コウ先生は言った。

「人間には文化を継承し発展させていくという、素晴らしい特徴があるのだよ」

学生は聞いた。

「それだけのために学ぶのですか」

コウ先生は言った。

「いや、それだけではない。もう一つの側面があるんだ。人間には、それぞれ、その人しか持たない素晴らしい宝物があるんだよ。それを人は、個性とか長所とか特技とか言うんだよ。それを自ら引き出すために、学び続けるんだよ」

学生は言った。

「今日から心を入れ替えて学びます。先生、ありがとうございました」

そう言って、学生は、すがすがしい顔で帰っていった。自分の道を見つけたかのように。

コウ先生は、その姿を見送りながら心の中で、つぶやいた。

「教育は受け継がれていくんだな。人から人へと。きっと青年は、素晴らしい教師になるであろう」

そのように確信した。

 

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