今度の相手は脇坂(わきさか)という、家電メーカーでは名を知られた会社の社長の息子だった。略歴と家族書だけで、写真は入っていなかった。三十二才のその息子も、見合いには乗り気でないのかもしれない。
釣り書きも若い男の手ではなかった。年寄りのお膳立てに乗って見合いに出てくる男というのが、薔子にはどうもよく分からない。それでいながら親のすすめに従って見合いなんかしている自分も自分だと思う。
何年、こんなあやふやな気持で待たせるんだ、と言った須賀の顔が浮かぶ。待たせてやしないわ、あなたもお見合いでもして、良いお嫁さん見つけたらいい、不実をなじられて、薔子はそう言い返した。その見合いを、この二年間しては、その日のうちに断っている薔子であった。
須賀の気持は知りすぎるほど知っていて、結婚に踏み切れない、かといって、大学時代からの交際を断つ理由もなく、これまできてしまった。
須賀の父親は一代で財をなした不動産屋で、父親も母親も薔子には愛想よくしてくれるがなじめなかった。その両親の血を、薔子は須賀にも感じることがある。自分の父母が、須賀をどう見ているかも彼女は知っている。
曲がりなりにも一流大学は出ているものの、派手で遊び好きの青年は、行儀のよい立木の家から見れば油と水のように溶け合わず、彼を娘の結婚相手として両親が正面切って反対を唱えることをしないのは、娘の分別を信頼しているという証でもあるようだ。
その一方で、須賀には成金息子のざっぱくな良さがあり、薔子は気心が知れていて気楽に付き合っていられるのであった。須賀の方はあれで結構見栄を張っているのかもしれない。
嫌いではないのに、結婚して須賀の靴下まで洗ってやる気にはならない。しかし須賀以上の男も現れない。こちらもあちらも生身の人間なら、百パーセント満足すべくもないのだからと思いもする。
彼が焦れてきているのを見るにつけ、イエスかノーか、はっきりさせるべきだと思う。そうしたのは彼の勝手だと言えば言えるが、三年間、ひたすら自分の返事を待ち続けている須賀の気持を、軽々しく扱っていいわけはない。
はたで見ている家族とは違って、須賀の情熱を弾き返しながらほだされるところもあった薔子には、薔子なりの気持があり、はっきり別れを言う段になると揺れるものがあった。今度の見合いの前に、一人になって考えたくて、ここに来たのだった。
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