それから六年後、元服した又兵衛は組頭の計らいもあって小普請(こぶしん)として父の家禄の半分(三十五俵二人扶持(ににんぶち))のみ引き継ぐことができた。しかし無役(むやく)のままで、敵討ちの宿意を果たすまではお徒としての正式な家名の継承は許されなかった。その頃になって初めて祖母から母の失踪の真相を知らされた。
「母の八重は、叔父の八右衛門に付いて家を出ていった」
と。又兵衛の両肩に手を置き、その目をじっと見つめ涙ながらに打ち明けてくれた。又兵衛は、その時恐れていたことがついに明かされたのだと思った。それまでもそれらしき噂は何度か耳にしていたが、あえて確かめようとはしなかった。
なぜなら、たとえそうであったにせよそうであってほしくないという思いの方が勝っていたからだ。だが、もし祖母の言う通りであったなら叔父だけでなく母までが自分を裏切っていたことになる。あらためて又兵衛は深く傷ついた。それまで最も信頼していた二人―叔父と母とに重ねて裏切られたのだ。
頼るべき心の拠り所を全くに失い、又兵衛は真に独りぼっちになった。自死さえ頭をかすめることがあったが、それでは余りに自分が惨めではないかと思い直した。そういう理不尽な不条理というものに負けたくなかったのだ。
生きていればまだ何とかなる。独りぼっちと言ってもまだ自分には祖母がおり道場の仲間たちもいた。支えてくれる彼らのためにも、すべてを奪い去った叔父に負けるわけにはいかなかった。祖父の遺言でもあった敵討(かたきう)ちという責務を真にわがこととしたのもこの時だったか。
こうして元服した又兵衛は、小普請ながらもお上の計らいで組屋敷にも残ることができ、その三年後唯一の身寄りであった祖母を見送ったのだ。
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