販売企画部の黒木君やシステム部の高田君などがチーム・メンバーだった。年齢が近いこともあり、週末に何回か飲みに行ったことがあった。飲み会の話題で、黒木君がモンサンミシェル修道院の話をした。

彼は一年前に旅行し、大変素晴らしいところと評し歴史的背景や姿の美しさを興奮気味に話していた。富田はこの話が切掛けで今回のフランス旅行に参加した。

その黒木君が急性白血病に罹り、先月、突然死亡した。まだ三十二歳であり、人柄も良く、人気者だった。彼ら三人組は仲が良かったので大きなショックを受けた。お葬式の手伝いにも行った。残された奥様と幼い一人息子が不憫に思えた。

お葬式は町田市郊外にある町田典礼で行われた。会社から、仕事仲間、管理者、会社役員が参列した。女子社員からすすり泣く声が漏れた。

お通夜の「お清め」には、プロジェクト・メンバーが自然と卓を囲んだ。人事部の大野君に高田君が質問した。

「黒木君の直接死亡原因は白血病と聞いているが、過労もあったのだろうか?」

プロジェクト・メンバーは、本来の自分の担当に加えて、プロジェクトの担当も加わり、忙しくなる。富田の場合も、平日は二時間残業だが、月末には決算処理で残業が四時間以上になることもある。黒木君も同様な状況だっただろう。人事部は、過労死という噂が社内に広まるのを特に嫌がる。

「忙しかったと思うが、黒木君は体力には自信を持っていた。学生時代は陸上部のキャプテンで、百メートル競走では優勝もしている。むしろ、家族の家系の遺伝はどうなのだろう?」

「いずれにせよ、運命と思うしかないと思うな」

推進中の「新車在庫管理システム」のプロジェクトは終盤に近かったので、黒木君の穴埋めは何とかなった。しかし、この時ほど、人生の儚さを強く感じたことはなかった。

ついこの間まで、一緒にコーヒーを飲んだり、冗談を言い合ったり、飲み会に行ったり、カラオケを歌っていたのだ。その彼が急にいなくなった。

人の運命というのは決まっているのだろうか? 神様は、誰を長生きさせ、誰を早く天に召すのか、選ばれるのであろうか? たまたま、悪いクジを引いたのだろうか?

 

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