「お嬢さん。貴女に逢うのは、今日で三度目です。いつもここに?」
「えぇ」と私は答えた。

「いつも一人で?」
「えぇ……いけませんか?」

「いけなくはない。ただ貴女みたいな美人が一人なんて」

美人と言われて、私はムッとした。この十把一絡げにした言葉のせいで、嫉妬を受け、自分がこれまでどれだけ痛い目に遭い、嫌な思いをしてきたか、誰もわかってなどいない。

誰一人、私を、ただ一人の唯一の個性ある人間とは見てくれず、容姿だけで勝手に決めつけ、勝手に押しつけ、女性達からは大抵のけ者にされた。私がにらんだので貴方は驚いたように言った。

「何か気にさわりましたか? お嬢さん」
「お嬢さんと呼ぶのはやめて下さい! 私はもう二十九なんです」
「まだお若い。やはり、お嬢さんじゃないですか」と、貴方はニヤリと笑った。

「何なんですか !? 私にご用ですか?」
「用がなくちゃ、いけませんか?」

「………」

「先月、貴女を初めて見ました。長い髪の似合う綺麗な人だなぁと見とれてしまって。そうしたら、先週もこの席に座っていた。だけど勇気がなかった。しかし、今日またお逢いした。これを逃したら一生後悔すると思って声をかけました」

「一生後悔だなんて、大袈裟だわ」
「いや、これは参ったな。貴女はご自分の美しさをわかっていないんですね」

「………」

「いいですか、お嬢さん。貴女は何か勘違いをしている。僕は純粋に貴女の美しさに惹かれているだけなんです。……いや、僕の方が勘違いをしているのかな? ちょっと失礼な事を聞くけど、貴女は男に誘われた事がありますか?」

「ありません。声をかけられたのは、今、貴方が初めてです」
「そうか。やっぱり、そういう事か」

「何なんですか !? 」

「いや、よくわかりましたよ。男っていうのは気の弱い生き物でね。傷つきたくないんです。だから、貴女みたいに完璧な美人を前にすると、自分なんて無理だと思ってしまう。つまり、貴女に声をかけるような男は、よほどの自信家か、よっぽどのバカってわけです。それで、この僕こそが、そのバカで自信過剰の男っていう事ですよ。初めてか」

貴方はうれしそうな顔をして、私をしげしげと見つめた。私は、そんな事は初めてだっ たから、恥ずかしくて耳まで紅くなっているのが自分でもわかった。