セットリストNo.1(第一章)
5 In My House–Merry Jane Girls
翔一の部屋は、東京と多摩川を挟んで位置している神奈川県の川崎市にある。そこは、国道沿いに建つ7階建てのマンションの最上階。寝室のベッドサイドには、テーブルが置いてある。
その上にある電話が、鳴り響いて目を覚ました。受話器を取り上げ、耳にあてて、「もしもし」まだ眠い目をこすりながら、時計に目をやると、もう午後5時だった。
昨夜は、及川と一緒に食事をして彼の車で、送ってもらった。まだ、寝ぼけている翔一の耳に、受話器から声が聞こえてくる。よく聞いてみると、それは片山の声だった。
「ごめーん、まだ寝てた?」
片山は、すまなそうに言った。ようやく眠気が、退散し始めた翔一は
「いや、いいよ。もう起きなきゃなんない頃だし。それで量はどれくらいになったの?」
「130グラムお願いするよ」
片山は、言った。
「わかった、夜はどこだっけ?」と、今夜の居場所を訊くと
「今日は、ラズィールに入ってるから、そっちへ連絡してください」
「OK、じゃあGETしたらすぐに知らせるから、そんでねぇ、おそらく今夜中にGET出来ると思うから、金は用意しておいてね」
翔一が言うと、「了解、用意しときます。じゃっ、よろしく」そう言って、片山の電話は切れた。「これで250は、さばけたな」小さくつぶやいた。及川の100グラムと、片山の130グラム、端数の20グラムは、自分用という計算らしい。
窓辺のハンガーレールに、ひっかけてあるバスタオルを首に巻いて、シャワーをあびようかな、と思ったときにまた、電話が鳴った。受話器を取り上げ、出てみると車の修理が出来上がったと、修理工場からの連絡だった。
「今日から、車で行けるな」
彼は内心、ホッとしていた。彼の部屋は、国道1号線沿いにある。国道1号線は別名、第2京浜道路と呼ばれている片側3車線の主要幹線道路。
マンションから、国道1号線に出て東京方面へ向かえば、3分で多摩川を越え、東京都内に入る。そのまま直進していけば、やがて戸越、そして五反田を抜けた後、高輪台の長い坂を左へコーナーしながら、かけ上がる。
麻布十番までは1本道。彼はこの道を、車で走るのが昔から好きだった。バスルームから出ると、オーダーの数量が、全部で250グラムだということを、相棒に伝えるため新二の部屋をコールしてみたが、新二は不在だった。
「昼過ぎに出ていったきり、まだもどってないわよ」と答えたのは、どの子かな?と、考えてしまうほど、たくさんいる新二の彼女。