【前回の記事を読む】五反田のマンションに運びこんだのは、材木店から調達した重い角材…即席の罠を仕掛けることに…

第一章 浩、狙われる!

今、横になってしまうと又寝てしまいそうなので、力を振り絞って起き上がった。入口へ戻って、じっと天井や壁、床を見て考え込んだ。どのように仕掛けるかが大事だな!と考えを巡らせた。

「よし!」と言って考えをまとめると、先ず入口から入って、靴脱ぎ場からリビングへ続く上り口手前に【0マット】を敷き、その上に風呂場のマットを置いた。そしてマットの滑り具合を確かめた。少し乗っただけで氷の上にマットが有るように前へ滑りそうになった。

自分は滑ることが分かっているからこの程度で済むが、分からない人間だと間違いなく滑るな!とニヤッと笑った。今朝まで恐怖に潰されそうだった自分が、笑えたことにおどろき、油断は危ない!と気を引き締めた。

そして奥から本棚を必死になって運び、上り口の壁にぴったりくっつけるように置くと一番上の棚に大きい風呂敷で包んだ重い角材の塊を持ち上げ、棚からはみ出しながら必死に置いた。

上り口と靴脱ぎ場には傘や靴や古い本、脱ぎ散らかした衣類に古新聞等を足の踏み場も無いほど散らかして置き、リビングへ上がるにはマットに足を踏み入れるしかないように工夫した。

浩が試しに本棚の上に載っている風呂敷から垂れた端を引っ張ると、風呂敷ごと角材は上手くマットの少し先に「ドスン!」と音を立てて落ちた。「よし!」と言って、重い風呂敷を再度本棚の上へ戻すと、奥のリビングにブリーフケースが突き出て少し見えるよう工夫してリュックを置いた。

その時、ノックがして「秋山良です」と声が響いた。直ぐ浩は、入口へ行き鍵を外してドアを開けた。ドアの先に良が何か荷物を持って立っていた。

浩が脇を開けて、「どうぞ!」と言うとニコッとして入って来た。そのまま靴を脱いで上り口へ足を踏み入れた時、「ダメ! 滑ります!」と浩が声を上げたが、既に良は滑って前の方へ転がり前転の要領ですくっと立った。

振り返りながら、「凄く滑りますね!」と言って吃驚した顔をした!「大丈夫ですか?」と尋ねると、「大丈夫です!」と答え、「成程、此れが0マットですか!」と頷いた。

そして、

「私のように前に転がって問題なく対処する人もいると思うので、マットの少し先に小さな椅子か踏み台のような品で、有っても不自然に見えない物を置いた方が良いかも知れませんね!」

と考えながら提案した。