【あらすじ】
これは、一通の手紙が起こした奇跡の実話を基にした物語です。高校二年生の二月、少女は一人のプロボクサーに恋をしました。それは、よくある女の子がアイドルスターに憧れを抱く感情と同じようなものでした。
彼は日本バンタム級のチャンピオンで次の防衛戦を控えていました。彼の周りに居るどの女とも違う純粋な少女に、彼もまた、惹かれていきます。彼の中で一人のファンの高校生からかけがえのない存在になっていく心の変化。
一途な少女の恋心。しかし彼は強くなりたい、世界チャンピオンになりたいという目標のために自分の心を封じ込めました。
プロボクシングのタイトル防衛、トレーニングキャンプ、減量、調整など厳しい生活の中でジムからもまた、女性との交際を許されていませんでした。
しかし、彼は気持ちを抑えきれず、ノンタイトル戦の後に一人試合会場で待っていた彼女を抱きしめてしまいました。心を抑えつけてから四年の月日が経っていました。引退してからも逃れられないボクシング界の確執、切っても切れない暴力団との関係。その中で翻弄されていく二人の運命。
彼と彼女の視点、過去と現在の時間枠で描きました。純愛小説として書きましたが、私が歩いてきた人生です。そして、一人のボクサーの人生でもあり引退後の生き様も描きました。
そして、四十三年の時を経て、一通の手紙により奇跡は起こりました。
「六ラウンド、二分十八秒の後で」
ひやりとした空気が頬を刺し、俺の体全体をその冷たさで包み込んでいく。
コンビニまでタバコを買いに行こうと外に出たが、北国の冬は寒い。家の前の道路の水溜りは、昼過ぎなのにまだ凍ったままだった。
玄関を通るとき、何気なく横にあった郵便受けに目を向ける。いつもは新聞やチラシでいっぱいになっているのだが、今日は綺麗だった。同居人の斎藤が片付けたのであろう。
「必要な物以外はすべて捨てろ」と言ってある。といっても、誰かから何かが届くこともないし、俺から誰かに何かを頼むこともない。だから、俺は郵便ボックスから郵便物を取り出すことがまずない。
だが、その日はなぜかポストに近づいた。そして、何気なく扉を開けると一通の白い封筒が入っていた。引き寄せられるように手紙を手に取る。
俺宛だった。当然、身に覚えがない。そっと裏返す。差出人の名前を見て手が震え、体中に電撃が走った。俺はその手紙を持ち続けることができず、それはゆっくりと足元に落下していった。冷たい地面に落ちたその手紙の差出人は――――