【前回の記事を読む】「さわっちゃダメかい…?」「いいわ…」——彼は首元に顔を寄せてきて、耳元にキスをした。私は体が熱くなり思わず「抱いて」

「あっ……」と私は、また小さく声をたてた。彼は私の頭を抱き抱え、髪に顔をうずめ、手で私の背中をさすった。

「抱いて……」

「ダメだ……」

「どうして?」

「愛してるんだ……」

「なら、抱いて」

「君を幸せにできない……」

「私、幸せよ」

「そんなの続かない……ダメだ」

そう言うなり「ハァー……」と溜め息をついて、彼は私を離した。そして、トイレへ行った。

私は、その間に服を着た。トイレから戻った彼は苦しそうな顔で言った。

「来週は来なくていいよ。……次は来月にしよう」

彼は言った通り『ココ』には来なかった。私はコスタリカコーヒーをすすりながら、何か、いけない事をして叱られた子供のように、淋しく、心が沈んだ。店内はモーツァルトの『レクイエム』が流れていて、その荘厳な調べは、私の哀しみを増幅させた。

彼は「君は残酷だ」と言った。「愛してる」とも言った。「君を幸せにできない」と言い、「私、幸せよ」と言うと「そんなの続かない……ダメだ」と言い、私の唇にキスもしない。