【前回の記事を読む】サレ夫への事後報告。美人妻と不倫男の出会いは、百貨店の性接待だった...
殺人現場
その一方で、達郎は、今更ながらに、智子の行動に呆れ果てていた。
だが、どちらにしても二人とももうこの世にはいない。もうどうでもいいじゃないか。そう思った達郎は、後はこの茶髪の女と会話を楽しもうと思った。
「よく、そういう接待には行くんですか」
達郎は、好奇の目で尋ねた。
「ええ、たまには……」
女は何のためらいもなく、平然として答えた。
「だけど、そういう接待に駆り出されちゃ、沢山給料をもらわないと合わないねえ……」
「もちろん、お金のためですわ」
「金の……」
「ええ、当日、接待に付き合った者には、一万円が支給されて、もし、先方のご指名にあずかれば、さらに、五万円になるんです」
女は、接待の社内規定を解説した。達郎に連れて来られた当初よりも緊張が解けて来たようだ。ちょうどその時、脚を組み替えたマイクロミニのスカートからすらりと伸びた脚線が、達郎の視線を釘付けにした。
ところで、殺人事件の捜査は難航していた。捜査本部の大東警部は連日頭を抱えていた。
事件を恨みによる顔見知りの者の犯行と断定して以来、井上の知人の全てが捜査の対象になった。松越百貨店金沢店は、パートタイマーを含めた三百五十二人の全社員が、事件当日のアリバイを求められた。
その結果、一人だけアリバイが実証されない者がいた。これは入社三年目の社員だった。しかし、これも後日証明された。彼は、デートクラブのような店に行って、そこで知り合った高校一年の女生徒とホテルにいたことを吐露した。捜査本部は彼を厳重注意にとどめた。
これらと平行して、当然店長の女性関係も洗われた。
店長は妻に先立たれ、独身生活を余儀なくされていたが、女性関係に関しては潔癖で、具体的な内容が周囲の者の口からきこえてこなかった。智子との間は誰にも告げていなかったようだ。
だが、意外な所から発言があった。井上が住んでいたマンションの管理人が、三十歳くらいの女が時々井上の部屋に来ていた、と証言した。それは、井上の部屋から検出された指紋からも裏付けられた。彼女は、井上の机の引き出しから見つかったたった一枚の写真に、ツーショットで写っている女性と推測された。それは四国の桂浜で写したと思われる写真で、昨年の十月の日付が入っていた。
管理人によると、この女が来訪するのは不定期で、一ヵ月に二度の時もあれば、二ヵ月間ぐらい来ない時もあったとのことだった。だが、管理人も女の来訪時を全て目撃していたわけではないので、その頻度に関しては断定できなかった。しかし、その女が事件の前三ヵ月ぐらい姿を見せなかった、と管理人が発言したことに大東は着目した。この女が事件に何らかの関連があるのではないだろうか、そう考えた。