第一章 出逢い ~青い春~
二
「私には何の取り柄もありません。ごく普通の、いえ、普通より内気で駄目な人間です。でも、花を生けている時、あぁ、私、生きてるって、心から歓びを感じ幸せに思えるんです。
春、夏、秋、冬、それぞれに咲く花があって、美しい花から季節を感じとり、自然のエネルギーを受け取って、花と出逢ったその瞬間に湧きあがってくる自分の感性を活かして、嵯峨御流の伝統の美学にのっとって、一番美しい姿に生けるんです。二度と同じ花はありません。
その時、出逢った花の美しさを見て、自分で発想して生ける。生きている花は、色んなインスピレーションを与えてくれます。花は何も求めずに、私に優しく応えてくれます。そして、それは刹那の美なんです。
いずれ花は枯れてしまう。何も残らない。命の儚さを、花を生ける度に切なく思います。だからこそ、出逢った花を最高に美しく生けあげる。
花を生けている時、無心になれて、心に命の光がともる気がするんです。本当に花が愛おしくて。華道は、私にとって、なにものにも代えられない生きがいなんです」
優子は、話し終わって自分で驚いた。内気で口下手で、他人に、こんなにも切実な思いを話した事はこれまでなかった。自分の思いを言葉にできたのは、聞き手である柚木の、自然すぎるほどの温かい空気感のせいだと思った。
「素晴らしいですね。貴女は取り柄がないどころか、誰よりも花を愛する優しい心を持っていらっしゃる。まずもって、普通なんて、ありませんよ。皆それぞれ、ちがっています。ご自分にもっと自信を持たれたらいいですよ」
柚木は本心で言った。これほどに、女性に心を打たれた事はなかった。優子の美しさが、内面の優しさから滲みでているものである事は、もはや明白だった。
「貴女にとって、お母さんは母親であると同時に、お父さんの永遠の恋人だった。貴女は、お父さんを好きだけれど、お母さんにどこか遠慮する気持ちがあった。つまり、お母さんと、ちょっとしたライバル関係のような感じがあった。