清らかな人
小学校一年の頃
近所に「いなりや」という
お菓子屋さんがあった
私は 甘い物に飢えていた
半円柱形を横にした
透明なお菓子ケースが 店の周りに並んで
種類のちがう 計り売りの菓子が 入っていた
そのケースとケースの間に
こぼれた小さな菓子を
私は 店員さんの目を盗んで 拾って
ポケットに入れた
ほどなく そこの娘さんと友達になり
彼女は 色の白いふっくらした
笑顔が素敵な可愛い子だった
遊びに行くと お菓子を沢山出してくれた
ある時 訪ねたら
亡くなったことを知らされた
体が弱かったらしい
私は彼女と遊びながら
彼女の境遇が うらやましかった
可愛い洋服を着て きれいな家に住み
お金に不自由しないことに
彼女の死で 七才の私は
お金があっても
生活に困らなくても
しあわせってことは ないのだと思った
だけど 心の中に残っている彼女は
いつも 楽しそうに遊んでいる
清らかな笑顔の彼女で
だから 少ししか生きられなかったが
充分 彼女は しあわせであったのだ