45年前に付き合いはじめた頃、彼は「ことりはブスだ」と失礼なことをよく言っていた。「ブスだけれど俺の前だけで見せる可愛い顔が好きなんや」と貶(けな)しているのか、誉めているのか、彼の精一杯の愛情表現だったのかもしれない。

16歳と17歳の私たちは「性」のことはまだよくわからない高校生だった。

クリスマスイブの夜、部活でまたもや帰りが遅くなった。彼はバイクではなく、電車で家まで送ってくれた。電車を降りて家路に向かう途中、急に左膝関節の痛みを訴えた。

「歩ける?」

「うん、ちょっと痛い、休憩したら治るかも」と言うので、すぐそばの公園のベンチに一緒に座った。私は彼の左膝をさすってあげた。

最近はクリスマスに雪が降ることはないが、45年前のホワイトクリスマスは珍しくなかった。

「ねぇ、ねぇ、雪!」

「ほんまや、積もらへんかな」

二人ともテンションが上がってしまい薄っすら積もった雪の公園ではしゃぎまくった。

「ねぇ、足痛くないの?」

と彼の顔を覗き込むと、そのまま彼の顔が私の顔に重なってきた。彼の柔らかい唇がそっと私の唇に触れた。生まれて初めてのキスはふんわりと雲に包み込まれたような感触だった。

その晩、私の心臓は高鳴りすぎて眠れなかった。足が痛かったのは本当だったのだろうか。

次回更新は5月11日(日)、22時の予定です。

 

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