先輩のやっていることをよく見て、次になにをすればいいのかよく考える、そのうちにだんだん作業の流れがわかってきて、俺は自分のなかで工程を理解していても、一応監督と呼ばれている人に確認を取りながら作業を進めていくノウハウがつかめたような気がした。
寮の部屋を宛がわれたときは、なんだか大人になったみたいでうれしかった。
毎朝四時前には起きて、作業着に着替え洗面もそこそこに、コンビニに走る。手近にあったパンかおにぎりを買って、それを食べながら一つ隣の駅までダッシュする。
仕事は肉体労働が主でかなりきつい。午後には歩くのもやっとの日も、珍しくない。
やっている仕事は主に雑用だが、監督が「あれを持ってこい」と言ったものを、間違えず持っていけるようになりたいんだ。
一つの現場に七、八人、まだどこに行っても新人の俺は、ほぼ一日中そこにいる全員に指図されて朝から晩まで、走り続けた。
お昼ご飯だけ、仕出しの弁当がもらえて、それだけが一日で唯一のまともな食事だった。夕方五時過ぎに仕事が終わり、ダメ出しがなければそこで終わり。
でも、まだ始めたばかりだったので、勤めて十日ほどで、残されない日は一日か二日だった。居残りになると、失敗が見つかり怒鳴られた。
それでもなんとか、俺と母さんを見捨てた、父さんと親戚をいつか見返してやると、それだけの思いでつらい仕事も耐えてきた。
なんとか、なんとかという思いで三日が過ぎた。どうにか、どうにかという思いで一週間が過ぎた。
次回更新は3月7日(金)、22時の予定です。
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