三か月前

蓮が野球を始めたのは、小学四年の時だ。

その日は、三か月に一度、永吉と会える特別な日であった。蓮は朝から心臓が激しく鼓動するのを感じていた。

両親が離婚してからも、蓮は永吉に会う機会が与えられた。それは、永吉と有花との間で約束された事であった。

三か月に一度は有花に連れられ、両親が離婚前に暮らしていた永吉の実家へ向かう。有花はその日、蓮と省吾を永吉の祖母に預けた。

「気を付けてね」

「うん!」

一瞬、曇った悲しそうな顔をした有花だったが、すぐにまた口元を緩めた。蓮は手を振って、自宅に帰る有花を見送った後、玄関を開けて省吾と一緒に家の中へ入った。

「あら、省吾くん、蓮くん、大きくなったねえ」

家に着くといつも、祖母が二人を迎えてくれる。祖母のくしゃっと笑う愛おしい表情は、数か月ぶりに会える孫との再会を楽しみに待ってくれている証拠だ。

「うん!」

そう答えると、祖母を玄関に置いたまま、省吾と二人で居間まで走っていく。

「こらこら」

後ろから、祖母の明るい声が聞こえてくる。

有花の気持ちとは裏腹に、蓮は永吉と会う日が余計に楽しみで仕方がなかった。永吉の温もり、体格のいい背中。有花からは感じとる事ができない父親としての存在感を、心と体で覚えていたからである。

その時永吉は既に実家を出て、別の家で暮らしていた。

兄弟は永吉が来るまでの間、祖母と一緒にかくれんぼをしたり、鬼ごっこをしては、時間を潰した。

一時間程経過した頃だろうか。

「あら、きたかねえ」

鬼役で、兄弟を追いかけまわしていた祖母が、細い声で呟くのが聞こえた。

耳を澄ますと、外で車のドアがバタンと閉まる音が、微かに聞こえてきた。

祖母はもう七十歳近かったが、兄弟がいつも気づかない気配を感じ取る気質がある。耳は子どもよりもよく聞こえるようだ。

すると少し経ってから、玄関がガラガラと開いた。待ちわびていた永吉のお出ましだ。

「お父さあん!」

「おう、元気だったか!」

「うん!」

永吉は兄弟を抱っこして、おでこにキスをした。

「よし、行こうか!」

永吉が言った。

丁度、身支度をし終わった祖母が、廊下から玄関に向かって歩いてくるのが見えた。

「今日はどっちに行くの?」

省吾が聞いた。