「今日は、回転寿司だな」

「やった!」

永吉と会う日には必ず、和食料亭か回転寿司に行く事がお決まりである。

永吉と離婚してからは生活が苦しかったせいか、有花が蓮たちを外食に連れ出した事は、殆どなかった。普段有花とは行かない場所へ連れて行く永吉への期待は大きい。

永吉の実家から三十分程離れた場所に、その寿司屋はあった。

四人で店内に入ると、白い割烹着を着た若い女性が、奥にある広めのテーブル席に案内した。

席順は、いつも決まっている。レーンに近い方の席は、蓮と永吉が向かい合わせだ。そして、通路側に省吾と祖母。蓮と省吾はいつも隣同志だった。省吾や祖母が食べたいネタをすぐに取れるようにと、レーン側は蓮の特等席であった。

蓮は好奇心旺盛で、ぐるぐると回ってくるお皿を取る事が面白おかしくて仕方がなかった。

湯飲みに全員分のお茶を注ぎながら、永吉が言った。

「好きなやつを食べていいぞ」

「蓮、マグロとって」

省吾が隣から指示を出してきた。

蓮は後ろを振り向いた。すると遠くから、赤色の身が乗ったお皿が、こちらに近づいてくるのが見えた。ぐるぐると回って、ようやく辿り着いたそのお皿をタイミングよく手に取り、省吾の目の前に置いてやった。

「はい!」

省吾は何も言わず、ニヤニヤしながらそのマグロを手で掴み、醤油も付けずに一気に口の中に放り込んだ。

もぐもぐと、満足そうに頬張る省吾の表情を観察しながら、蓮は回ってきた海老の皿に気づき、透かさず手に取った。

待ちに待ったこの瞬間がやってきたのだ。寿司を食べるのは、数ヶ月前に永吉とこの店に来た時以来であった。

蓮は、中に山葵が入っていないかを入念に確認し、醤油に少し浸したその海老を口に運んだ。

この食感だ。そしてこのプリプリ感が堪らない。

ここぞと言わんばかりに、好きなネタを集中して食べ続ける兄弟に、永吉はいつも苦笑いでその様子を眺めていた。

昼食を食べた後は、広い芝生がある公園へと向かった。

「よし、キャッチボールやるか」

「キャッチボール?」

「うん。このグローブを手につけてみろ」

永吉は自分がやってきた野球を我が子に教える事が、叶えたい夢の一つだったのだ。永吉は、グローブと軟式の野球ボールを二人にプレゼントした。