深海のダイヤ

六月にしてはからりと晴れた水色の空に、ピンポンパンポンと間の抜けた音が鳴り響く。開け放たれた窓から爽やかな風とともに飛び込んできた声は独特のハウリングがかかっていて、こんなに静かな真昼だというのにほとんど聞き取れない。

それから五分を待たず、支所の電話が一斉に鳴りだした。

「はい。飛熊市緋桜支所住民課の真田でございます」

「おいお前、何時だと思ってんだよ。朝の十一時だぞ」

溜息を飲み込み受話器を上げると、中年の男が怒鳴りつけてきた。

「こっちは明け方まで仕事で、ようやく寝たんだよ。なのに、朝っぱらから大声で放送なんてしやがって。近所迷惑だろうが。一体どういうつもりだよ」

「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません」

馬鹿馬鹿しいと思いながら、雪子は丁寧に謝った。

「申し訳ねぇと思うんなら、今すぐ止めろよ。お前らと違って、朝まで汗水たらして働いてる人間は大勢いるんだよ。くだらねぇ放送で安眠妨害しやがって」

「お休みのところ、すみませんでした。放送の音量についてはよく検討をいたします」

仕事柄、昼夜が逆転しているだけであって、自分たちのほうがたくさん働いているという理屈はおかしい。だいたい午前十一時は朝じゃなくて昼だ。

瞬時にさまざまな反論が頭を過ったが、あくまで従順に相手の言葉を受け止める。

電話応対の極意は逆らわないことと、まともに相手をしないことだ。受話器を肩に挟み、いかにも共感的に頷きながら別の業務を進める。

「検討するじゃねぇよ。とにかく今すぐ放送止めろよ、ボケがっ」