そう言いながら若い女子事務員が休憩室に入って来た。雅代が昼食のツナと卵のサンドイッチを食べ終わりパート仲間と雑談をしていたときだった。

現場で働くパートタイマーと事務所に籠もって仕事をする事務職とはあまり交流が無い。雅代は、入って来た女子事務員の顔は時々見るが名前までは知らなかった。それは向こうも同じだった。

「はい、柴原ですが」

雅代は椅子から立ち上がりそう返辞をした。

「柴原さんですね。先程ですが電話がありましたよ。昼は交代で取ることになっているので、今昼に入っているかどうかわかりませんがと言ったら、電話番号を教えてくれました。できるだけ早く連絡を下さいということでした。名前は仰らなかったですよ」

事務員はそう言って電話番号の書いたメモを渡してくれた。

「事務所に電話って、柴原さん、携帯持ってへんの? 不便とちゃう?」

女子事務員が帰ったあと、雅代と事務員の遣り取りを見ていたパートの一人に呆れたようにそんなことを言われたが、雅代は携帯電話を持っていなかった。頻繁に連絡を取らなければならない相手もおらず必要の無いものと思っていたからだ。

「ええ、まあ」

雅代は曖昧にそう答えて、メモに目を遣った。

「誰からやろ?」

雅代は訝った。メモに書かれた電話番号は叔父の家のものではなかった。雅代は叔父の家を三日で出て、越したアパートの住所は勤め先のスーパーマーケットと叔父以外には知らせておらず、郵便物さえほとんど配達されたことがなかったからだ。

雅代は休憩室の壁に掛かった時計にチラリと目を遣り残りの時間を確かめるとスーパーマーケットの入口にある公衆電話に急いだ。

「はい、児童相談所です」