役割、仕事、趣味の創出

家の中では定期的に、音楽療法士の長谷川さんと住宅スタッフがレクリエーションをしてくれます。

長谷川さんはいろいろな手芸、切り絵、折り紙などの素材を調達し、皆さんの気分を乗せて作品を作るお手伝いをするのが本当に上手です。

あるご婦人は「先生、見て! これ、私が作ったのよ。上手でしょ?」と住宅をモチーフにした編み物を見せてくれました。

住宅の中は入居者さんたちの作品で飾られていて、その一つ一つが皆さんの生きた証であり、私たちへの感謝が込められているように見え、作品を見るたびにありがたさを感じます。

入居者さん達が作ってくれた住宅のパッチワーク。

『「みんなでする」という人的な場としての演出も、環境づくりの一側面です。役割、やることがあることは不安を払拭し、自信を促します』注1)

レクリエーション室には自動麻雀台があります。ここにはいつの間にやら麻雀好きの紳士、淑女が集い、ゲームがはじめられます。

ところが、ほとんどの方は麻雀が好きだったにもかかわらず、やり方や役を忘れており、はたから見ていると、子供たちの積み木と同じに見えます。みんなで雀卓を囲むのが楽しいのです。

麻雀を楽しむ入居者さん達。(巻頭P.viii)

90歳を超えてもしっかりされていた紳士が辛抱強く、その中に混じっていました。彼はとぼけたご婦人たちに麻雀牌を配ったり、手を教えたり、一緒にゲームをしてくれます。

ある時、「池田さん、よく一緒にゲームできますね?」と問うと、

「いいの、いいの、俺もそれなりに楽しいのよ。子供に教えていた時を思い出すよ。みんな、歳をとったらしょうがないよね。でも、みんな楽しそうじゃない、それが一番だよ」

と答えてくれました。池田さんは小さなやりがいを感じていたようです。

麻雀は小さい社交場であり、手や耳、目を刺激するいい仕掛けですね。住宅の両翼に少し閉じられた空間にある、図書コーナーと休憩スペースをおいたのは正解でした。

『閉じられたスペースは何のための空間かわかりやすく、「やること」を見付けやすい。また、その場に座ると適度な囲われ感があることで集中できるのだそうです』注1)