『どうして……』
心の中に浮かんだのはこの単語だけで、言葉にならなかった。
『なんで……』
呆然とする頭の中に、反射的に浮かぶのは、文章にならない単語の羅列だけであった。
『京子と俺は、何か悪いことをしたのか?』
次に湧き上がってきたのは、自責の念であった。しかもその時は、まだ具体性はなかった。
「なんで京子が?」
それだけが、うめくような小さな言葉になって、外に出た。私が知っている限りでは、京子がやましいことをして生きてきた記憶がない。
『それに引き換え、自分は仕事上で、気付かぬうちに不道徳なことをしていたかもしれない』
『何もかも、……京子が悪いのか? そうではなかろう、……』
天の裁きを目前にして、これまでの生きざまを瞬時に振り返っている自分がいた。
ついに、結果が言い渡される日がきた。私だけが呼び出された。エレベーターで八階に上がり、ナースセンターから通路で繋がった一番端の個室に入った。はるか昔、家で見た茶箱のマークの付いたビルが近くに見える。