「そういや、あれの中身って、なんなの?」

沈黙を破るために放った、何げない一言にすぎなかった。どんなつまらないもの入れてるの? くらいな感覚で。

ふと、瞳子さんの冷静な顔が、いっそう静かさをたたえた。風のやんだ湖のように、冷たい感じのする静かさだった。

「覚えてるかな? ずっと前に、ドッチ君と病室でやったでしょ?」

唐突に、一年七カ月前の出来事を、瞳子さんは放り込んできた。 ぼくは今思い出したかのように、ああ、とうなずいた。

暗闇の中で弾んだ熱い吐息、滑らかで柔らかい肌の感触、艶かしい記憶に一瞬心奪われ、ぼくは無防備になった。そんな注意力を失ったぼくの耳に、奇妙で奇怪な告白が侵入してきた。

「あん時の赤ん坊。もちろん亡骸サンだけど。置きどころに困ってさ、グルグル宅配で回してるんだ」

そっぽを向き、まるで他人事のように、瞳子さんは呟いた。

「は? 何言ってんの?」

「去年の十二月に、内緒で産んだの。前いたアパートで。すぐ死んじゃったけど」

そっぽを向いたまま、彼女は驚くべき告白を並べていく。

瞳子さんと関係を持った五月初旬に、十カ月を足してみた。三月初旬。妊娠月の数え方はよく知らないが、十二月ということは、妊娠七カ月目、というあたりか? てことは早産してしまったということなのか? 嘘だろ? 

しかしあの日ぼくは、突然のことなので避妊具など持っていなかった。ためらうぼくに、「なくても大丈夫だよ……」と瞳子さんは囁いたから、安全日なのだと思っていた。それはぼくの思い込みであって、完全に否定できる材料にはならない。

とはいえそんな話、とても信じられない。仮に妊娠していたとしても、普通なら堕ろすに決まっているし、ましてやアパートで産み落とすなど、親に告白できなかった女子高生ではあるまいし。

「冗談でしょ?」

呆気に取られるぼくに、

「さあ、ね」 

「だってそんなこと、できるわけないじゃん」

「できるよ。女は強いんだから」

「でもやったら、犯罪になるって」

「バレなきゃ平気だって」

ぼくは言葉を失った。うすうすただ者ではないと感じてはいたが、まさかここまで変わっている女とは予想していなかった。さっき食事に誘わなくて正解だったと胸を撫で下ろさざるを得ない。うろたえて苦笑いを浮かべるぼくに、彼女は涼しくほほ笑みを返すばかり。

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