「自宅から少し歩くだけで浜に出られた」と、妻の故郷のことは聞いたことがあるが…私は、妻自身のことをほとんど知らない。
記憶の旅に栞紐を挿み
【第11回】
村瀬 俊幸
今日も伊那谷の広い空と2つのアルプスを眺めながら歩んできた道のりを振り返る
妻の病を機に、変化した生活。移住した信州での、穏やかな暮らし。予定外の出来事ばかりだけれど、これが私の、たった一回の生命の旅――。夕陽が沈む時、その残照が仙丈ケ岳をコバルトブルーに浮かび上がらせています。その荘厳な光景の先に永遠の時を想い、生きていることの奇跡を思わずにはいられません。(本文より)※本記事は、村瀬 俊幸氏の書籍『記憶の旅に栞紐を挿み』(幻冬舎ルネッサンス)より、一部抜粋・編集したものです。
第1章 試行錯誤の毎日─リハビリ・介護生活から現在まで─
試行錯誤しながら生活を見つめて
過度ないたわりがお節介になってしまうことや、気遣いや遠慮がかえってよそよそしく感じられてしまうこともあります。
自分の時間を見つけながらそれを楽しむことで、もう一度、二人のちょうどいい距離感を見つける試行錯誤を続けています。
第2章 私が知っている妻のこと
二人が出会うまでの妻
小学生低学年の女の子が、澄まし顔で写っているモノクロ写真が1枚手元にあります。たぶん、それが、私の知っている妻のもっとも幼い頃の姿です。浴衣姿で、真ん丸顔のおでこを出した女の子が、唇を真一文字に結んで写っています。