退院が近づいてきたある日、私たち二人で病室を出て散歩しながらランチをしてきたこともありました。またリハビリスタッフが、美容院に出かける機会も計画してくれました。妻にとって何か月ぶりかの美容院は、さすがに嬉しかったようです。

転院当初から退院までずっと担当してくれた理学療法士、作業療法士の二人には、感謝の言葉しかありません。若いのに本当に親身になって、私たちを支えてくれました。

退院前の外泊もリハビリの計画に組まれていました。妻には4か月ぶりの我が家でした。車椅子を用意しなければなりませんが購入先もよく分からず、役所に相談して車椅子センターで借りることにしました。この時に借りて実際に使ったことが、その後購入する時には役に立ちました。

月が替わって退院に向けたカンファレンスがあり、退院日をいつにするか都合を聞かれた時、二人とも可能なら翌日ということで思いが一致しました。私は妻の退院の日、『素晴らしい朝、次のはじまり』と日記に綴ってから、大急ぎで病院に迎えに行きました。

退院後は自宅の生活に慣れるのに、少し時間がかかりそうでした。それでも私たちには、もう何も焦ることはありません。のんびりやっていこうと思っていました。

後に知ったことですが、妻は自分からあれこれ要求すると、私に負担や迷惑をかけてしまうのではないかという気兼ねがあったようです。逆に私は、妻の考えや希望を聞きながら支えていきたいという気持ちだったので、後にそのずれがお互いの関係をぎくしゃくさせてしまったこともありました。

妻の性格や気持ちは良く分かっているつもりでしたが、本当はあまり理解していなかったと思います。あれから5年以上たっても、そんな場面が時々あります。言い争いを仕掛け八つ当たりするのはいつも私のほうです。

まだまだ、障害のある妻と一緒に暮らす生活に慣れていないのか、感情をコントロールできない我が身を思い知らされます。障害がある妻という見方というか、こだわりから抜け出せない私がいます。

そんな右往左往の生活をしながらですが、入院中に二人で決めたクルーズに申し込んだり、近くの公園に出かけ歩行のリハビリに付き合ったりして、一緒の時間を過ごすことが増えました。