一年二組

教室にはすでに生徒が席についていた。私も静かに他の生徒に倣った。私の遅刻を誰も咎めることはない。先生が騒がしく廊下を行き来している。一時限目はとっくに終わりの時刻に差し掛かっているのに、先生が授業に来る様子はない。

黒板に書かれた自習という文字。監視のために廊下を歩いている先生。同級生たちはいつもと違う学校の空気感にわけも分からないまま動揺しているようだ。普通一クラスだけが自習なら他のクラスから授業している先生の声が聞こえてくるはずなのに、それが一切ない。

誰もが牽制しあうように黙り込んでいる。好奇心が旺盛な者は首を伸ばして他のクラスの様子を確認している。それも若手の先生が歩いているのに気が付くと、その首を元に戻した。他の先生は会議をしているらしい。

異様な雰囲気に誰もが緊張している。全クラスが急遽一斉に授業を中断した。先生が事情を把握しきれない状態で黒板に書いた自習という二文字が歪んでいる。普段なら、生徒たちはその言葉を待ってましたとばかりに大騒ぎするのに、動揺こそすれ、不安げに先生の後ろ姿を目で追っていた。

すると教室にそれぞれ先生が入っていくのが見えた。この一年二組にも担任の先生が入ってきた。先生は少し落ち着きのない様子でクラスを見渡した。

いつもと違って声も上ずっている。欠席者の確認をしてから、事情を話さずに体育館に移動するとだけ伝えた。廊下に他のクラスの面々が並んでいる。明らかにいつもと違う緊張感に当惑する。

誰もが事情を知らないようで、空気も不安で揺れている。けれど彼のいる一年一組だけは教室に残っていた。教室からどうして自分たちだけが残っているのか、また他のクラスだけなぜ移動するのか、理由を探ろうとする視線が廊下側に向けられている。

その視線の中から彼の瞳を探そうとしても、すぐに見つけきれない。私たちのクラスの列が歩きだしたので流れに従う他なく、私は諦めて体育館に向かった。

そういえば一組の教卓にいたのは担任ではなくて岩室先生だった。

 

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