職場の上司や同僚は女の奈保子が職人たちと飲むことを心配するが、そういう危険を感じたことは一度も無い。

むしろ年配の親方たちは奈保子に、

「早く帰れ、男には気を付けろ、酒はほどほどにしておけ……」

などと親みたいな注意をしてくれる、そういう雰囲気が奈保子にはあるのだ。

さっぱりしている。一緒にいると楽しい、酒好きで明るく性格のいい男の子みたいな雰囲気なのだった。

奈保子は頑張り屋だった。二級建築士を手始めに、一級建築施工管理技士、建築積算士、一級建築士と次々と資格を取り、ついでに宅地建物取引士、再開発コーディネーターの資格まで取ってしまった。

建築やインテリアが好きな女性は多いが、彼女たちの関心の高いインテリアコーディネーター、ライティングコーディネーター、キッチンスペシャリスト、整理収納アドバイザーなどの資格取得には目もくれず、ハードな建築設計施工の世界に取り組み、生真面目さと集中力、行動力で生きてきた。

そんな奈保子は、勤めている建設コンサルタント会社の中でも評価が高く、若くして管理職の肩書きをもらい、時代の波に乗り給与やボーナスも相当な額を獲得していた。

面白くないのが大学の同級生だった夫だ。

都下の市役所に勤める夫は仕事は地味で、地位は安定し解雇等の心配は無いものの収入は低く、仕事上の特段の目標や夢も持てずに漠然としたつまらなさを感じている中で、妻が高額の報酬を得て毎日はつらつと仕事に出掛け、ほろ酔いで遅くに帰ってくるのが段々気に入らなくなってきており、

「俺が亜美の面倒や家事を相当こなしてやってるから、お前が好き放題に生きていられるんだ。もう少し俺に感謝してもいいんじゃないか」