そこは、高速道路を使い一時間半程かかるところにあった。一回行くと十二ケース、約三百本分を購入し、二カ月に一回程度買いに出かけた。ある時、店員の方から、
「お祭りかイベントでもするんですか?」
と尋ねられた。一家でこれほどの量を飲むとはとても想像できなかったのだろう。一ケース購入する人もそういないようだ。私は、
「家族が多く、全員これが好きで、健康維持のため毎日飲んでいるんです」
と嘘の回答をした。何回も通ったため、店員の方と知り合いにもなった。それでも、妻が、がんを患い、人参ジュースが身体に良いからとは言えなかった。
がんという言葉を口にしたくなかった。本当のことを話したら、それはお気の毒にと思われるだろう。そう思われたくなかった。
千恵は、「美味しくない、美味しくない」と言っては、毎日何本も飲用していた。そのうち、娘と私も毎日一本程度を飲用することにした。同じ物を飲用することで、千恵の気持ちを少しでもなだめたかった。私は、
「彩ちゃん、この人参ジュース、美味しいよね?」
「うん、以前のものよりずっと飲みやすいし、口当たりもいいし、何より、健康にとっても良さそう」
「ママ、味覚少しおかしいんじゃない?」